かつて住んでいた町、元住吉。 引っ越してからも数回訪れたが、町の様子、特に駅前の通りはいつもどこかが変わっ ている。 住んでいた頃は「ブレーメン通り」という名称すらなかった。 一方で変わっていないのは、町全体の活気と路地裏にある八百屋、飲食店、洋品店、 ビリヤード場等々。 時代の波や町の変貌ぶりに驚くと共に懐かしさも覚える、私にとっては不思議な地で ある。 かつて私が住んでいた建物は建て替えられて今では誰かの立派な住居になっていたが、 その近所にあった銭湯やクリーニング屋は少し改築されたものの今でも営業している ようだ。 私はこの町には3年くらい住んでいたのだが、その当時よく通った店(定食屋)が今回 紹介する「さんきち」である。 店の前には「洋食屋」なる看板が掲げられているが、そのようなものは当時はなかっ た。 おぉぅ、どうやら店も少し広くなったようだ。 店に入ると料理人見習い中のニイチャンが迎えてくれた。 まだ最繁時には少し早い ため、客の入りは少ない。 繁忙時にはオヤジサンが常に調理場に立って腕を奮っておられるのだが、この日は奥 で休憩中だったようだ。 「いらっしゃ〜い」とか「はい、トンカツ一丁〜」などという、そのオヤジサンの威勢 の良い大きな声もこの店の魅力なのだが、それはいずれまたの機会に・・ 注文は行く前から決めてあった。 私が好きな「おろしトンカツ」である。 これはトンカツに大量の大根おろしを盛り付け、それにこの店オリジナルの梅紫蘇ドレ ッシングをかけて食べるもの。 ドレッシングをかけ過ぎるとしょっぱくなるが、そのサッパリした辛さがトンカツに よく合うのである。 この店の料理はどれもボリュームたっぷりで安くて美味い。 けっして洗練されたもの ではないが、庶民の味として誰でも美味しいと納得し、しかも満腹になることは間違い ないだろう。 そんなことを回想していると、やがてサラダが出てきた。 相変わらずのボリューム 満点だ。 野菜自体はどこにでもあるものだが、この店オリジナルのサウザンアイランド・ドレッ シングが美味しい。 ファミレスなどによくある味でなく、たぶん卵やマヨネーズをた っぷり使った、まろやかな仕立てである。 さて、いよいよトンカツの出来上がり。 ライスを半分にしてもらうのを危うく忘れる ところだった。 このボリューム、盛り付け、付け合わせ(スライスした玉葱)、味噌汁、そしてその味 ・・何もかもが懐かしい。 「お袋の味」にも通じる懐かしさと安心感。 初めてこの店を訪れても、それは間違いなく感じられると思う。 そんな料理が美味く ないわけがない!